星霧の館

創作小説の他、特撮やFFSの記事を作成し無事に世界は崩壊した…

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「ミストルティン編 第三話 葬室からの励と責~イット・カムズ・レイド」 #1 「プリーズ、セイ・オールライト(Please, say alright)」(リファイン版)

2014.01.19 (Sun)
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「アクトボット部にぃぃぃーーー!栄光あれぇぇーーーーっ!!!」

中学生の少年。、観崎智明と源瀬隆光。
教室へと歩く二人の前に、隕石が落下した。

…いや認めよう。アレは…人だ。というか知人だ。残念ながら。

隆光が気配を察知した時点で、アレ…いや彼は校舎より高い位置にいた。
最低でも30メートルの高さから地表に叩きつけられた。パラシュートも無しに。

「…死んでんじゃない?」
「…いや生き…」
「生きてるよ…」

智明の一応の疑問に、隆光は答えようとした。その途中で隕石が代わりに答えた。
いや人だ。残念ながら。
二人の知人にして、今日からは同級生。智明にとっては恩人にしてライバルの少年である。
…遺憾ながら。

その少年は跳び起き上る。全くの無傷。恐らくは内臓や骨もそうだろう。
右手を握り、左手にパン!と叩きつける。拳を手で包み込む形で手を合わせ45度のお辞儀をしてくる。

「ドーモ、みさ…み…み…部長とその相棒=サン、浅空勇矢です」
「…おはよう浅空君……」
「……おはよう」

呆れながらも智明達は挨拶を返す。

彼の非常識はいつものことらしいが、中学生活初日にして部活動始動の初日からコレとは。
智明は幸先の悪さを感じ、頭を抑える。
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―――「ミストルティン編 第三話 葬室からの励と責~イット・カムズ・レイド」 #1
「プリーズ、セイ・オールライト(Please, say alright)」
togetter版 / 第三話まとめ
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この数分前――。

西暦2013年4月9日(火)10:15。茨城県日館市星咲学園中等部。
昨日の入学式に引き続き、今日は10:30始業の短縮授業。午前中は先の予定などの説明、午後は各部合同の新入生歓迎・勧誘会がある。この会とその後の体験入部を踏まえて、新入生は部活動を決めることだろう。星咲に帰宅部は無いので、他の部には入らねばならない。8割以上の生徒は参加する筈だ。
だが強制では無い。
参加しない新入生もいる。
例えば入学前から希望の部があれば、明日以降、直接希望の部に行ってもいい。今日は家族と食事にでも行くのもアリだ。
または既に入部を済ませている者。1日から新入生の所属は可能なので、前年度文化祭の時点で部を決めた者や、兄や姉、先輩のいる部に入る者もいる。

観崎智明達は、どちらかといえば後者である。
ただし正確には事情は異なる。

彼は1日付で部活動を新設した。
部の構成要件である10名以上を揃え、顧問の教師とも交渉し、資金も用意、部室も確保・改装まで済ませた。
正に万全の構え。
特に部員は13人も集めた。日本各地からの選りすぐりの人材だ。
全てはロボット競技大会『アクトボット』で優勝する為。
企業や大学のチームが切磋琢磨する大会で、中学生のみで優勝し、名を挙げる為。
智明が見据える、更にその先の未来の為。

観崎智明と源瀬隆光は、部活塔から校舎へと向けやや早足で歩いていた。距離にして10分の距離。5分前には着く計算だが、少なくとも新入学の日としてはギリギリと言える。クラスメイトとの懇親は歓迎会で済ませることになろう。

昨日、既に部員の顔合わせをしたが、明日水曜日は実戦形式に近いプレゼンが行われる。少しでもその準備をしておこうとしたのだ。

「しかし、改めて…本当に優秀な人材に恵まれたね」
智明がふと口を開いた。
「恵まれた訳じゃないだろう。お前達が探してきたのだから」
隆光が応じた。
部員達は智明達が各地で交渉して呼び込んで来ていた。確かに『恵まれた』という表現は不適当かも知れない。
「偶然出会いに恵まれた」相手は数え方にもよるが、13人中2,3人程度だ。
隆光はそう考えた。
「いや、恵まれた、で良いんだよ」
「?」
「全ては彼のおかげだからね」
「そういうことか」
隆光は頷く。
「僕が『計画』を立てたのも、その為にアクトボットを選んだのも…全ては彼がきっかけだからね」
「…浅空」
「他の皆も、彼がきっかけだろう?」
「ああ」
「4年前…あの大会での彼の活躍がね?」
カメラ目線めかして隆光の反対、誰もいない方を向いて言う。
「何故、向こうを向く」

浅空勇矢(あさぞら ゆうや)。
彼と智明達が小学三年生の時の2009年度大会で、アクトボット全国大会に出場した少年である。
二度の予選を軽く勝ち抜き全国大会に出場し、優勝の見える順位まで肉薄し、千万単位の賞金を得た。
その時の人数は……彼一人だった。

アクトボットは全国予選こそ1対1のロボットバトルだが、地区予選以降は集団戦である。直接戦闘と同時に得点の獲得の競争も並行して行われる高度な競技。そして出場枠は人数20人、機体は20体までで、大半のチームはこの枠の7~8割を埋めてくる。少なくとも上位陣は殆どがそうだ。
そんな中での勇矢の上位進出は驚異を通り越して脅威、いや異常だった。
1人で10名以上の敵チームを何組も撃破したのだ。

例えるのなら敵はフルメンバーに控え付のプロ野球チーム。対する勇矢は小学生1人。
しかも何チームも撃破したのだ。
油断やルールの隙を突いた、という理由もあるが、それを考慮してなおも凄まじい。

代表者18歳以上、という年齢制限対策の保護者役はいたが、彼女は整備を少し手伝うだけで、試合中は事実上完全に勇矢1人のみだった。
それに加え1人で3台以上の機体を操る操縦能力、高過ぎる機体性能、技術力アピールにほぼ無関心、などイレギュラーに過ぎた。

その時の彼は純粋に金目当てだった。名誉などはどうでも良かった。
だが、結果として、その活躍は智明や後の部員達を始め、少年少女を大いに触発し、翌10年度大会では小学生~高校生の参加が倍以上に増えた。勇矢自身も2名の仲間を迎えて、再び参加した。金とは別のなんらかの意図を持って。

しかし勇矢も、他の少年チームも結局優勝は叶わなかった。大半は1次予選で振るい落とされた。
勿論、実力がその域に達していなかったチームも多い。
だが09年度なら全国を狙える少年達も確かにいたのだ。それでも届かなかったのは何故か?

答えは単純な話で、大会のレベルが上がったからである。
勇矢に負けた企業チームの上役にしてみれば、子供一人に負け返ってくるのは居眠りでもしていたのか!と怒鳴りたくなるレベルの無様さである。
勿論、勇矢が異常なのであるが、それを理解しないものは多い。一般の観戦者・視聴者にも。

アクトボットの一般人への知名度・注目度は甲子園に少し劣る程度。テレビ中継もされる。
その時点で既に広告効果は大きいが、工学系の業界にとっては大会優勝はノーベル賞にも匹敵する権威である。
ガキ一人に良い様にされては、大会自体の品位まで下がりかねない。

つまり全力を出したのだ。
今までが手を抜いていた訳では無い。賞金も名誉も魅力である。
ただし…優勝できると思っているチームは殆ど無かった。
主催でもある八千代グループの様子る八千代ロボティクス。第一回以来の無配の王者にしてディフェンディングチャンピオン。
それが圧倒的過ぎた。
一位の決定後、戦うことになる彼等は余りに強い。
特殊ルールで数チーム同時に相手にしても圧勝する。
単騎で他の1チーム全機を凌駕する。
最新鋭戦闘機と、一次大戦中の複葉機くらいの差はあろうか。

主催サイドのチームゆえに八百長や出来レースなのでは?と疑問を呈する者もいたはいた。
そんな者達は鼻で笑われ、今では小マスコミくらいしかそんなことは言わない。巨漢の力士が幼児を持ち上げて土俵の外に出すのを、八百長と言う様なものだからだ。どうせ言うなら大人げないと言ってやった方が建設的だろう。

最終目標が圧倒過ぎるが故に、業界では一位の時点で事実上の優勝と認識する者が多かった。逃げの姿勢である。
勇矢にはソレを突かれたというべきかも知れない。
勇矢は例えば、敵のアンテナ受信機を破壊したり、有線式ロボのケーブルを切り、小型機で、かつアンテナを破壊出来ない場合は機体ごと絶縁箱で包んだりもした。卑怯と言われるだろうが、粒子型のチャフや妨害電波でも出さない限りはルールの範囲内である。
或いは、試合開始から一分以内に速攻で敵全機を中大破させもした。
そう出来るだけの実力があった…のは勿論だが、普通は出来てもやらない。八千代チームですら…彼等だからこそしない。

そもそも相手チームは大抵、同じ業界の同業他社もしくは未来の先輩や後輩である。ある程度華を持たせる必要がある。接待試合と言えば言い過ぎだが、暗黙の作法がある。例えば前衛同士がぶつかる間に、後衛が得点源をゴールに運ぶ…などだ。ある意味遠慮とも言える。

だが勇矢にそんなものは関係ない。将来この業界に就職する気など更々ない。やらかしても両親の仕事には影響はないという確信もあった。
ゆえに敵が実力を発揮する前に倒した。

そんな訳で翌年度は、仲間二人を迎えた勇矢にとっても楽では無かった。前年の雪辱とばかりに反則寸前の方法で狙われもした。それでも優勝を狙ったが…八千代チームと戦うことも無く終わった。

だからこそ優勝への渇望は強いだろう…智明はそう思っていた。だから、去年彼を勧誘した際、最初あっさり拒絶された時には驚いた。最終的にはアクトボット優勝の「先の計画」を明かすことで、態度を一変させ、参加を承諾させた。


勇矢以外のメンバーの勧誘は、そう難しくなかった。勧誘自体は。勧誘の為の移動や彼等の転居の手続きの方が難しかった。
智明と隆光ともう一人の通っていた東永山小学校は、ここ星咲から徒歩で30分前後の距離にあるが、他11人は違う。
福岡から3人、京都方面から3人、茨城西部から4人が集まってきている。
県外からの6人に関しては学費・生活費の一部に加えて住居も用意されている。
茨城西部の4人に関しても交通費などが与えられている。

茨城東部の日館と、彼等の地元は直線距離では100キロにも満たないが、電車通学では遠回りになるため、移動時間・距離・費用とも無視できない負担になる。その負担は、智明達によるものだ。そこまでする価値がある。

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●以下に部員達を紹介しよう。全員が12歳の新入生である:

東永山小学校出身者:
・観崎 智明(みさき ともあき):発起人にして部長。10年度大会では開発とサポートメカの操縦を担当した。アクトボットに必要な能力としてはオールラウンダー型で、部ではスーパーバイザー的な役割も兼任する予定である。両親もロボティクス技術者で海外を飛び回る。高校生の姉と小学生の妹がいる。・源瀬 隆光(みなせ たかひろ):智明の相棒にして、観崎家の居候。10年度は人型ロボの操縦と開発の補佐を担当した。人間離れした身体能力と技を持ち、その動きをロボに反映させることで、強敵を瞬殺する。両親が海外から多額の送金をしてくる為、智明の活動資金の6割方は彼の投資による。部でも引き続き操縦と部員の護衛を担当予定だ。
・伊都谷 湊(いとや みなと):マネジメントと会計を担当する。この部では少数派の大会未経験者で、工作の技術も未熟だが、事務方の能力は高い。既に部員達の生活の為の予算編成、より安価での部品の調達、スケジュールや資金の管理までを一手に担う。元々は他県出身だが、五年時に智明の勧誘により転校してきており、それ以来彼に盲目的なまでに付き従う。


福岡・呼原北小学校(通称:呼北)出身者:
・村雨早紀(むらさめ さき):攻撃に優れた機体を開発する。操縦においても攻めが得意。部では武器開発をメインで担当予定。12年度大会参加の発起人。無意識レベルでSだが、それを除けばかなりの常識人で人当たりも良い。
・海上起矢(みかみ たつや):防御に優れた機体を開発する。操縦においても守り向き。部では装甲開発や機体剛性計算を担当予定。早紀の幼馴染で実家は漁師。数学の計算に優れる他、他の分野でもIQは平均以上…なのだが変に天然なところがあり、文章題やひっかけに弱い。ありていに言えばバカだが、人は良く友人も多い。
・河坂直人(こうさか なおと):修理のエキスパート。修理の道具やパーツが足りなくとも有りものでどうにかする応用力が高い。操縦では中衛・サポート向き。
彼等は2012年度大会にでは全国にこそ出られなかったものの、地区予選で優勝候補を下している。目当ては賞金だったが、智明達から借りて目的を果たしている。

京都組:
京都・鴨川南小学校出身者:
・亀岡興基(かめおか こうき):駆動部の開発に優れる。粗っぽい口調でケンカっ早く思われるが、実際は温厚で義理堅い。体格と顔で良く高校生にすら間違われる。
・氷堂蘭花(ひょうどう らんか):プログラミングに優れる。自分で何かをしようと言う意欲が極端に薄く、日常生活は要介護レベル。能力自体は高く、やり方を覚えれば凡そ何でもこなす。小柄だが身体能力も中3の平均以上。
兵庫・鷲林(しゅうりん)小学校出身者
・島田延生(しまだ のぶお):操縦に優れ、2・3機を同時に操作出来る。射撃能力も高いが、たまに誤爆する。開発は苦手で、整備は手伝い程度のみ。起矢以上の天然かつマイペースで間がおかしい。基本的に悪意はないがマイペース。兵庫県民だが10年度は京都組として出場。彼もまとめて京都組と呼ばれる。

茨城県西部・来栖見(くるすみ)小学校:
・子安星護(こやす しょうご):戦術担当。操縦も少し出来る。数多くのゲーム大会に出場し、年間数百万の賞金を獲得する賞金ハンター。アクトボットでの活動に際して、彼の活動が制限される為、10年度は勇矢から『休業補償』を受け取ったが、この部ではそういう契約は無い。母子家庭で母親は若い。中性的な顔立ち。同性愛者では無く、性自認も男だが勇矢を愛している。
・七橋裕岐(ななはし ゆうき):勇矢の幼稚園からの幼馴染。何でも人並み以上にこなし、苦手分野は少ない。アクトボットでは特に改造・改良が得意。
・白鳥仁美(しらとり ひとみ):デザインを担当予定。湊同様に大会経験者では無い。勇矢達を勧誘に言った智明に偶然見出された。ロボットや機械のデザインに元から興味はあったが、内部が良く分からず、苦戦していた。部では初期など事務の補佐も担当予定。部内の女子では一番発育が良い。

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「ヒロの操縦能力や、湊のマネジメント、氷堂さんのプログラミングに河坂君の修理技術は言うまでもないけど、勿論それだけじゃない」
「…」
隆光は無言で頷く。自身の能力をも含め肯定した。

「亀岡君、島田君、村雨さん、海上君、星護君、七橋君、白鳥さん…それぞれが上位陣チーム数人に匹敵する人材だ…彼等を見出せたのも、元をただせば浅空君のおかげと言って良いだろう?」
「そうだな」
「その彼に至ってはもう、一人で1チームに匹敵する人材だ」
「ああ」
「ただでさえ優秀な人材が十分に揃っているのに…それに加えて、僕らにはまだ、その彼…浅空勇矢がいる!」
智明が誇らしげに呟き、隆光が頷きかけた、正にその時。
「…ッ!…トモ!」
隆光が咄嗟に腕を突き出し、智明の歩みを制する。


「アクトボット部にぃぃぃーーー!栄光あれぇぇーーーーっ!!!」

二人の前に、隕石が落下した。
…いや認めよう。アレは…人だ。というか知人だ。残念ながら。

勇矢は、最低でも30メートルの高さから地表に叩きつけられた。麻酔無しで。

「浅空………いなくなったな…」
「………そだね…死んでんじゃない?」
「…いや生き…」
「生きてるよ…」

隆光を遮って隕石…勇矢が代わりに答えた。
二人の知人にして、今日からは同級生。智明にとっては恩人にしてライバルの少年である。
…真に遺憾ながら。

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勇矢は二連続バック転で起き上がりつつ、全身に付いた土埃を払い落とす。
その姿は多少汚れてはいるが、全くの無傷。埃を払いながら、ぼやく。
「痛たたた……『あーや』の奴、適当な目測で放りやがって……あ…!…グワー!全身グワー!」
そして思い出したかのように大袈裟に痛がる。
「…まあ甘えといて文句言える立場じゃないけどさ、こうなるんなら普通の時間に家出てた方が…いや、1時間甘え足りなかったら恐慌から回復し切れなかった…あ」
勇矢は、そこでようやく側の二人が顔見知りだと気付いた。一瞬沈黙し、真顔に戻る。立ち上がる。
右手を握り、左手にパン!と叩きつける。拳を手で包み込む形で手を合わせ45度の礼。
その動作は実際どこかのニンジャめいていた。

「ドーモ、みさ…み…み…部長とその相棒=サン、浅空勇矢です」
「…おはよう浅空君……」
「……おはよう」

呆れながらも智明は挨拶を返す。

彼の非常識はいつものことらしいが、中学生活初日にして部活動始動の初日からコレとは。
智明は幸先の悪さを感じ、頭を抑える。

「それじゃ後で」
彼はそのまま立ち上がると、二人を置いて校舎へと歩き出した。
何事も無かったかのように。
「……」
「……」

「いや…いやいやいや待って、まさかの説明無し!?」
智明が驚愕する。
「え、いや他の人だったら誤魔化すけど、君ら相手じゃ別にいいだろ?」
「いや気になるよ!」
『気にするな!』勇矢に代わり電子音声が返事をした。彼が取り出した金端子USBメモリからだった。
映像作品の音声を収録した自作の玩具『ボイスメモリ』。
これを使う時はまともに受け答えをする気が無いということだ。
「しかし、浅空君!あと一息で僕らに直撃した可能性も」
『気にするな!』「しかし!」「寝ろ」「しかし!」「寝ろ」「しかし!」「寝ろ!」「しかし!」「寝ろ!」「しかし!」
不毛なやり取りで1分が潰れた。三人は取り敢えず歩きながら話すことにする。

「…あーやは『そんな』ヘマしないよ」
無駄応酬の末、勇矢が先に折れた。原因はさておき、自分の側に非があるからだ。
「やっぱり彼女の仕業か」
「やっぱ分かってたじゃないか」
勇矢の言う『あーや』とは彼と同居する少女、『染川 絢女(そめがわ あやめ)』のことである。
正確に言えば姿こそ人間の少女だが…その実態は妖怪や邪神の類に近い。
「で何があったの?喧嘩?」
少なくとも30mは上から落とされた筈の勇矢は痛そうではあるが平然と歩いていた。
彼は一応人間である。魔術を使える人間…魔術師を人間と呼ぶのなら、であるが。
「…まあ多分、優しさ…かな?あーやは、そうそうこの手のコントロールなんて外さないけど、僕は痛みで恐怖を薄められた」
「うわぁ……。って違う!その恐怖って何の話だよ!」
まるで訳の分からない話だった。小説かアニメの1・2話分を見逃したの様だ。


「あ、それより明日の10日が君と僕でプレゼンだよね」
勇矢は強引に話を逸らす。
智明はまだ納得がいかない。だが彼との浅くも長い付き合いからこれ以上は無駄と早々に判断し、返事をした。
「そうだよ。今も準備をしてきたところさ、君は?」
「先週中に終わった…で金曜の…?」

「12日の金曜が福岡チームとで、再来週の26日に京都チームと戦ってもらう」
「何で僕ばっか戦わされるん?…福岡と京都で戦わせたっていいじゃんよぅ」
「普通は君みたいに大会レベルのロボをポンポン作れないからだよ」
勇矢はロボの操縦や設計ばかりか、製作速度すら異常に高い。
自身の知力のお蔭でもあるが、魔術もその一因である。
80年代魔法少女めいて無からポン!と創造するのではない。素手で金属を加工したり、生成に工場が必要な素材を制作出来るのだ。

「これはこれで苦労があるん……ってそうじゃねぇや。その金曜の部活が終わったらちょっと話がある」
「今日や明日じゃダメなのかい?」
「ああ、むしろ明日は終わったら即撤収したい。I wanna 撤収したい。急用だ」
「…急用?」
元々、勇矢は『急用』が入りやすい。だがそれは『事』が起きてから入る文字通りの急用である筈だ。少なくとも数時間前に予見できるものでは無い。つまり別件。一般名詞としての本当の急用だろう。
「ああ、話したいのもそのことなんだが……結論だけ先に言っとくと、今年はあんまり部活に出られなくなると思う」
「え!?」
青天の霹靂だった。昨日の顔合わせからの15時間程の間に一体何があった!?
今年は様子見、本番は来年と決めてはいた。だが勿論狙えるなら今年も優勝は狙う気だった。勇矢がいればそれも可能だと思っていた。彼はたった3人で優勝に迫ったのだから。
「あと、1次と2次の予選も怪我とかで欠場するかも知れん」
「はぁ!?」
「で、11月の全国大会と、あと下手すると文化祭辺りの頃は」
「それも休むとでも!?何なの!?」
もう既に訳が分からなかった。だが本番はここからだった。
「休むというか……その…僕、最悪の場合死んでる。良くて入院」
「死!?」
「死ぬだと!?」
流石に隆光も聞き捨てならなかった。
「おっと…ちょっと急がないと遅刻だな。走ろうか」
「いやいやそれどころじゃないよ!ちょっと!」
「ま、僕が死んだところで本番は来年なんだし、適当に代わり探せばいいだけじゃない」
「…君の代わり何かっ!世界中どこを探したっていないよ!」

「………僕だ~って~か~わ~りはいないよ~♪…I'm the…only one~?」
「急に歌うな!」
「説明しろ、浅空!」
掴みかかろうとする隆光。勇矢は二連続前転で危なげに躱し、校舎へ急ぐ。
「ま、長くなるから後は明後日ね…こんな怒られるなら最初からその時にすりゃ良かった…」
「おい!」
勇矢は100m7秒の速度で疾走し、行ってしまった。
隆光なら軽く追い抜けるが…どうせ教室で会うのだ。智明を置いてまで追う必要も無い。

本当に、彼自身が言う通りに金曜に話してくれれば!
…要点だけでも先に話そうという考えは、報連相の観点からは間違ってはいない。
問題は内容の重大さと、全容を明かすまでの間隔の長さだった。大大問題、大大災害だった。
一体に何があったのだろうか?
元々『外れた』人間ではあった彼が、昨日まで以上に遠く感じられた。

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10:28。中等部1年A組教室。
3人は2分前にギリギリで間に合い、すぐに着席した。
死と言う物騒な話題だけに、智明達も校舎に入ってからは止む無く口を閉ざした。
1組には部員では他に湊と起矢、裕岐、星護が属している。

「みんな、おっはようー!」
「「おはようございます!」」
担任が入室してくると、生徒達は挨拶を返し着席した。
彼女は愛川由理。2組の担任と並んで生徒達の間では既に人気が高かった。
男子は勿論、女子からも憧れの対象として見られつつある。今年度から星咲に赴任してきているのも同じだ。

「普通の授業は明日からだけど、その分、今日は大事な話が多いから、よーく聞いておいてね~」
『はーい!』
由里は今日や向こう1・2週の予定、複雑な部活動システムの説明、プリントの配布などをてきぱきと15分ほどで終えた。既定のプリントの他、独自に用意したA4用紙も1枚混ざっていた。
他のプリントの説明や、向こう一週間の必須提出物や必携物を分かりやすくまとめたもの。裏面は出席番号と漢字氏名だけ書かれた座席表だった。
氏名の周りに書きこみ用の空白が広く取られている。
「その裏は友達との自己紹介用ね。名前の読み仮名とかのメモに使ってくださいね~」
個人情報保護に過剰なまでに厳しい昨今、名簿自体を配らないことも多い。読み仮名を抜けば問題になりにくかろうと考えての処置だ。
「使ってもらえると嬉しいんですが、個人情報のアレで大変なんで、なるべく来週中には捨てるか、家で保管するようにお願いね?」
『はい!』
紙質も長持ちするものでは無い。同級生を覚えるまでのメモの為なので、それで充分なのだ。
そんなやり取りを勇矢は忌々しげに眺めていた。
(『友達との自己紹介』って何だよ…もう友達なら自己紹介の必要ないだろが…)
ちらちらと勇矢の方を見てくる由理の視線を露骨に避けつつ、横目で睨む。

「さて男女混合のあいうえお順で、自己紹介を始めましょうか?その前にまずは私から…改めまして、愛川由里です!教師歴は今年で3年の、まだまだ新米。24歳です」
おおっ、と歓声。
心身を熱く、する、男子達。
「オゥェッ…」
一方で冷めていくのは、誰か、一人。
「まだまだ至らないところもあるかも知れませんが、皆さんと一緒に成長していきたいと思ってます」
豊かな胸がごく僅かに揺れる。これが更に育とうと言うのか!
「…」
隆光はその一部始終を目に焼き付けた。彼でなければ見逃しちゃっていたかも知れない。
一方、先程の誰かは吐き気を堪えるように顔下半分を押さえた。

「せ、せんせー!」
男子の一人が手を挙げた。
AB部員の海上起矢だ。
「スリーサイズは!」
「ふふ…ヒ・ミ・ツです」
少女めいた仕草ではぐらかす由理。
誰か、こと勇矢は軽く口内に戻した。
「89E」
隆光が呟く。
『!?』
色めき立つ男子!
「確かか!?」
誰が聞く。
「俺の目は誤魔化せん…確かな見応えを感じた」
「どうなんですか先生!?」
「うん…その、通り、よ…」
24歳は胸を押さえ、頬を赤らめながら、そう答えた。
『よっしゃあ!』
『豊満ヤッター!』
「お、おい!WとHは!?」
騒ぐ男子の一人が隆光に続きを促すが…。
「…知らん」
「そんなこと言わず!」
「おっぱい以外は分からん」
「……」
彼の眼力は胸限定であった。
「浅空にでも聞いたらどうだ?」
「!?…浅空?」
隆光は右前方を指差す。浅空勇矢は出席番号一番の生徒…廊下側最前列だ。
「おい、教えてくれ!」
「いやそもそも何で知ってるんだ!オイ!」
何人かの男子が立ち上がり、詰め寄る。だが勇矢はそれどころでは無い。吐いた物を我慢して飲み込むのに必死である。
パンパン!
「はい、皆そこまで」
由理が手を鳴らして制する。
「勇…んんっ…浅空君、大丈夫?」
由理は勇矢の顔を覗き込む。誰がどうみても心配そうな表情だ。
彼の位置からはその胸の谷間が良く観測出来る筈だが、勇矢は露骨に左90度横を向く。隣席の伊都谷湊の大平原の方を観察していた。
湊は図らずも彼同様の顔になると平坦な胸元を片手で庇う。

智明と他の男子はそれぞれ違う理由で殺意を向けた。
(また湊をそんな目で…)
(てんてーに何故か名前で呼んでもらった上に目線逸らしやがって…)
彼の平均好感度は100を最高として初期の70から23くらいまで下がっていた。
「誰かさんが…離れて、くれれば、マシに、なりますよ…『愛川先生』」
勇矢が、絞り出すように言った台詞で教室の空気が死んだ。
彼の好感度は1になった。
この世界がギャルゲーなら初日でバッドエンド確定である。

「あら…嫌われ…ちゃったかしら?まあ、まだ今年一年…いえ、三年もあるからゆっくり仲良くしていきましょうね、ゆうや君?…あ、学校では浅空君だったわ!いけないいけない!」
『!?』
「げ」
男子一同の聖なる泉が枯れ果て、凄まじき怒りが雷の如く出でた。勇矢は間もなく闇に葬られよう。
「それじゃあ私のはここまでにして、皆の自己紹介を始めましょうか…出席番号1番は…あらっ!浅空君!」
由理はわざと、わざとらしくそう言った。
「それじゃあ、来栖見小学校でも毎年同級生を自己紹介で沸かせた9月25日生まれ天秤座元弓道部、お父さんが警察官、お母さんが弁護士の浅空君、どうぞ!」
なんというキラーパスだろうか。血液型以外の主要な話題を奪われた。
勇矢は口いっぱいに苦虫のコロニーを頬張ったような顔になっていた。
今は10:50。昼休みは正午から。一人あたりの自己紹介時間は2分はある。120秒だ。
「さ、どうぞ?」
覚悟を決めて口を開こうとする勇矢。
「あ、立ってお願いね」
止むを得ず起立すると、教室の真正面、黒板を見つめた。
「……皆のほうを向いてね」
左に100度回る。
「浅空勇矢です」
それだけ言って着席した。
「……………」
「………」
――シーン。
誰もがそんな擬音を連想した。
確かに愛川由理の発言はキラーパスだった。
それでも普通は特技や趣味…或いは血液型などで水増しするものでは無いのか?別に先に言われたことを言い直すか、話に肉付けしても良い。
他にも簡潔な自己紹介で済まそうと考えていた生徒はいた。その彼等すら思い直す程の素っ気なさだった。
「えー浅空君は、先生の友達の親戚の子です」
教師が助け舟を出した。
「なので先生は思い切り甘やかします」
そして自らその舟を転覆させた。
「贔屓して優遇します。けど仲良くしてあげて下さいね」
舟は轟沈した。
溺死寸前の勇矢。
教室がガヤガヤとざわめく。

勇矢は本当の救助直後の水難者めいて、両手で反対側の腕を掴んでかき抱いていた。
「ちなみにその友達は2組の深水優祈先生です」
水中から足を引っ張られた。
男子の半分強と一部女子から殺気が飛んでくる。
「ゆ…浅空君は深水先生がセーラー服を着てた頃からの知り合いだそうです」
足に重りを括り付けられた。
殺意の眼光で実際に痛みが発生し始めた。心身相関…過度のストレスは実際に肉体のダメージにもなる。
「浅空…」「アサゾラ…ユウヤ」「埋める…」「千切る…」「砕く…」「普段はてんてーに何て呼ばれて…?」
直接的に『殺す』と言われないのが余計に恐ろしかった。
「そういえば昔、優祈とお風呂に入ったことがあるんだって?」
死刑判決!
「あ、そういえばこの間も3人で入ったわね」
『!?』
勇矢の背に何かがぶつけられる。
「あと、可愛い妹さんや親戚の黒髪ロングで巨乳のお姉さんと同居だったわね」
後ろの席の男子が椅子を蹴り上げてきた。
個人情報保護とは何だったのか。
「ご両親は忙しくて殆ど家にいないから大変よね」
後頭部目掛けて辞書が飛来する。首を左横に傾けて避けた。
左隣の湊に脇腹をカッターで刺された。刃を収納したままなのは彼女の理性の賜物である。

『もうやめろ!とっくに僕のライフはゼロだ!』
勇矢は余程叫んでやりたかった。だがこの状況で下手に声を出すと、周囲の殺気が暴発する恐れがあり危険だ。
もっとも既に2・3人に関節を決められている現状では既にそれも無意味だ。
「しょうがないわね。じゃあ次の人行きましょう!」
そのまま自己紹介は続いた。
半分が終わった頃、ようやく生徒の熱が冷め、関心も移り勇矢は解放された。
既に、朝の落下を上回るダメージを受けていた。魔術で衝撃に備えられたあの時とは事情が違う。
人前で露骨に防御力を高める訳にも行かない。
本気で無い、じゃれ合い程度でも数人から連続で受ければ結構な痛みである。
(このままじゃ、秋を待たずに死ぬかもな)
(このままじゃ、秋?を待たずに死ぬんじゃないかな)
勇矢と智明は期せずして同じことを、冗談交じりに考えていた…。
―――ミストルティン編 第三話 葬室からの励と責~イット・カムズ・レイド~ #1 終わり #2 に続く

次回:ミストルティン編 3話 「葬室からの励と責~イット・カムズ・レイド」 #2 「装甲機、GO!RUN!」


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